日本文学科の学生が卒業論文の準備段階で読むべき手引き書


by la-fida-nifa

法政大学文学部日本文学科では、卒業論文(20000字以上)を、卒業の必須要件として課している。
卒業論文は、これまでに培った知識・思考力・文章力・調査力などをすべて傾けて作成される、学業の結晶である。
以下、「論文とはどのようものなのか?」「論文を書くにはどのような準備をしたらよいのか?」という基本事項を説明してゆく。 

  

1(A)論文とは何か?                                    

文学研究に限らず、論文というものは、構造として、次の三つの要素を備えていなければならない。

 
【1】問題設定        
 ―自分で「問い」を設定する。
【2】根拠・具体例・論証  
 ―その「問い」に答えるための証拠や例を挙げ、分析し説明する。
【3】結論           
 ―最初に立てた「問い」に答え、結論を述べる。


或る作品・或る作家・或る言葉・或る資料を対象として論文を書く、というとき、調べたことや考えたことをすべて詰め込んで20000字を満たしても、それは論文とは言えない。
調べたり考えたりしたことを元に、【1】自分なりの「問い」を立て、【2】それに答えるための証拠を並べて説明を積み重ね、【3】最初の「問い」に対する結論を出す、という構造を持って、はじめて論文となる。

右で「問い」と言ったのは、「○○は、××か?」という疑問文のことであると考えてもらえればよい。
自分が取り組んでいる作品・作家・言葉・問題について、「○○は、××か?」という形の疑問文を作ってみよう。
「谷崎潤一郎の『細雪』について書きたい」とか「擬態語や擬声語を調べてみたい」という漠然とした願望だけでは、まだ、スタート地点に立ったとは言えない。
例えばそれを、「『細雪』の中で天災はどのように描かれているか?」とか「『つぶつぶ』という擬態語は、古代から近世まで、どのように変化したか?」といった、具体的な疑問文に絞り込んではじめて、論文のテーマが決まったと言えるのである。

従って、何も読まず何も調べていない段階では、明確な「問い」を立てることはできない。
通常、四年生の春には卒業論文の題目を決定しなければならないが、そのためには、三年生最後の春休みまでに、興味のあるテーマについて下調べを行ったり、対象とする作品を読み込んだりして、具体的な「問い」を複数立てておく必要がある、ということである。  

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# by la-fida-nifa | 2010-10-31 06:09 | 論文を書くための準備
1(B)論文の基本構造
                                      
優れた論文は、その「タイトル」「目次」「はじめに」を見るだけで、コンセプトや論述の流れがわかるものである。
論文は、次のような「型」の中に書かれるものであることを、まず理解してほしい。

  
●表紙(論文タイトル、氏名・学籍番号などを記す)      
―タイトルは、研究対象や論文のコンセプトがはっきり現れるものにしよう。
●目次      
―目次を見るだけで論述の流れがわかるよう、各節に適切な名前を付けよう。
●はじめに    
―何を対象に、どういう問題意識を持って、どのような「問い」を立て、どのような手順で論述を進めるのか、明快に説明しよう。 
●第一節     
―調査データ・具体例を挙げ、説明。          
●第二節     
―調査データ・具体例を挙げ、説明。
●第三節     
―調査データ・具体例を挙げ、説明。
……
……
●おわりに    
―最初の「問い」に対する「答え」「結論」を述べる。
●注    
―論文中に「注」を付け、先行論文を挙げたり、補足説明を行ったりする。
●付記      
―依拠したテキストや、調査データの出典などを付記する。
●参考文献一覧  
―「注」に挙げきれなかった論文などを列挙する。



この「型」は、まさに、先に述べた、論文の基本構造【1】【2】【3】を具現化したものである。
「タイトル」や「はじめに」で、自分の研究対象・研究動機を具体的に示し、自分なりの「問い」を宣言する。
各節(チャプター)で、証拠となる文章やデータを示しながら丁寧に論証を重ねてゆく。
「おわりに」で、最初の「問い」に対する何らかの「答え」「結論」を記す。
……という構造である。
この「型」を意識しておけば、何が言いたいのかわからないピントのぼやけた論文になってしまうことは避けられるはずだ。

論文は、いわば、文章によるプレゼンテイションである。
自分がどういう問題設定をし、その問題についてどんな証拠を集め、どのように思考をめぐらし、どのような結論を導き出したのかを、誰が聴いても理解できるロジックで説明する。
……そういう心づもりで論文執筆に取り組んでほしい。

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# by la-fida-nifa | 2010-10-30 06:22 | 論文を書くための準備
1(C)論文を書き始める前の準備                                 
 
論文を書くためには、周到な準備が必要となる。
以下、テーマを決め、調査を進め、執筆を開始するまでの、基本的なプロセスを説明してゆく。

  
【イ】一次文献(作品・資料)を熟読し、問題点を複数ピックアップする        
一次文献というのは、例えば『徒然草』であったり村上春樹の全小説であったり過去二〇年分の朝日新聞であったりと、各自それぞれであろうが、自分が対象として選んだ作品・資料を繰り返し読み、気づいたことや疑問に思ったことを、いくつもいくつも書き溜めてゆく、ということである。
テキストやノートやパソコンに、頭に浮かんだアイディアや必要なデータをそのつど記し留めておく習慣をつけよう。
 

【ロ】自分がピックアップした問題点について調査する。 
      
気づいたこと・疑問に思ったことを念頭に、対象とする作品・資料を読み直したり、関連する他作品・他資料を調査したりして、必要なデータを抽出しておく、ということである。
例えば「泉鏡花における水のイメージ」というテーマで論文を書こうとするなら、鏡花の全小説の中から「湖」「洪水」「温泉」など、テーマに関連するものを抜き出してストックしてゆくわけである。
この段階まで進んだら、指導教員に、「こういう問題について、ここまで調べ、考えた」と相談して、論文のテーマを一つに絞り込むことができる。
 

【ハ】集めたデータを分析し、試行錯誤を繰り返す。 
              
自分のテーマに関連するデータ(文章や資料や言葉)は、日々、ノートやパソコンに蓄積してゆくわけであるが、「それぞれのデータがどういう意味を持つのか」「そこから何が言えるのか」は、そのつど熟慮しなければならない。ただ黙々と調査するのではなく、「これはなぜなんだろう?」「ここからこういうことが言えるんじゃないか?」という形で、試行錯誤を繰り返すのである。
この過程で溜めたデータやアイディアノートは、論文を説得的にするために欠かすことのできない「証拠」となる。
 

【ニ】二次文献(論文)を読む。 
                 
自分の研究テーマに関連する論文を捜して読み、どこまでが明らかにされていて、どこからが明らかにされていないのか把握しておく、ということである。
論文や研究書は、決して鵜呑みにせず、「先人の一説に過ぎない」という立場で読むように。
先行論文が持つ論理矛盾や調査不足や発想の狭さなどを批判的に捉え、それを踏み台にして新しい自分の論文を執筆する、という意気込みを持ってほしい。
 

【ホ】章立て(説明する順番)を考える。
             
今まで集めた調査データや、今まで考えた覚え書きメモや、今まで読んだ先行論文などをすべて広げてみて、それらをどういう順番で説明すれば、自分の「問い」と「結論」をわかりやすくプレゼンテイションできるのか、熟考してみよう。
そして、論文の「目次(章立て)」を作ってみよう。この章立てこそが、論文執筆のための「地図」となる。
この段階まで来たら、ようやく、論文執筆に入ることが可能となる。

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# by la-fida-nifa | 2010-10-29 06:31 | 論文を書くための準備
1(D)どのような点が評価されるのか                               

卒業論文構想中・執筆中には、指導教員からいろいろなアドバイスを受けることだろう。また、卒業論文提出後の面接では、指導教員からさまざまな質問を浴びせられることだろう。
文学部の指導教員は、例えば、次のような点に注目して論文を評価する。
  


◎テーマは具体的に絞り込んであるか? テーマやアプローチに独自性はあるか?
◎対象とする作品・資料を、正確に読解できているか?    
◎調査は十分に行われているか? 調査方法は適切か?   
◎集めたデータをきちんと分析してあるか? データの分類は客観的に行われているか?   
◎先行論文を批判的に捉え、自分の研究をその上に位置づけているか?   
◎問題設定から結論に至る論述はスムーズか? 論理の矛盾や飛躍はないか?   
◎日本語表現は的確か? 誤字脱字はないか? 文意は明瞭か?   
◎記号の使い方、引用の仕方などは、適切か? 


右の評価ポイントは、指導教員のためにあるのではない。
論文執筆に挑む学生諸君が、自分の論文の質を自分で客観視するためのチェックリストと考えてもらいたい。

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# by la-fida-nifa | 2010-10-27 06:42 | 論文を書くための準備
1(E)論文執筆をはじめる前に読んでおくべき基本図書
                       
論文のテーマを決めるとき、或いはテーマを決めて調査を進めているとき、或いはデータが揃って執筆を始めたとき、ふと行き詰まってしまうことがあるかも知れない。
そんなときは、指導教員に相談するのがベストであるが、きわめて基本的なことは、以下のような論文執筆ガイドを読めば、すぐに解決する。
文学研究に特化したものではないが、どれも、一度は目を通しておくべき指南書である。

■「論文とはどういうものか?」「どうやってテーマを絞り込むか?」「どのように書いてゆけばよいか?」という基礎を丁寧に教えてくれる二冊
 
・戸田山和久『論文の教室─レポートから卒論まで─【新版】』(NHKブックス、二〇一二年)
・酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために』(共立出版、二〇〇七年)


■「論理的な物の考え方」や「論理的な文章の書き方」を教えてくれる三冊 
・苅谷剛彦『知的複眼思考法』(講談社プラスアルファ文庫、二〇〇二年)
・飯間浩明『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー携書、二〇〇八年)
・石黒圭『文章は接続詞で決まる』(光文社新書、二〇〇八年)




                (以上、文責:加藤昌嘉)
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# by la-fida-nifa | 2010-10-26 06:52 | 論文を書くための準備